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矯正治療と歯根吸収について ― 知っておきたい基礎知識

学術活動
2026.11.07

矯正治療を検討されている方の中には、「歯を動かす治療は歯根に負担がかかるのではないか」「歯根吸収という言葉を聞いて不安になった」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、矯正治療と関わりの深い「歯根吸収」について、一般的な知識としてわかりやすくご紹介します。なお、個々の症例に対する診断や治療方針については、必ず担当医にご確認いただく内容となりますので、あくまで基礎知識としてお読みください。

歯根吸収とは何か

歯根吸収とは、歯を支えている歯根(歯の根っこの部分)が、何らかの原因によって徐々に短くなったり、部分的に溶けてなくなったりする現象のことを指します。歯は骨のように硬い組織ですが、生体の一部である以上、条件がそろえば吸収(溶けてなくなること)が起こり得ます。

歯根吸収には大きく分けて「生理的吸収」と「病的吸収」の2種類があります。生理的吸収とは、乳歯から永久歯に生え変わる際に、乳歯の歯根が自然に吸収されていく現象で、これは成長過程における正常な反応です。一方、病的吸収は、永久歯の歯根が何らかの原因で異常に吸収されてしまう状態を指し、外傷、炎症、矯正力など様々な要因が関係するとされています。

また、吸収が起こる部位によって「外部吸収」と「内部吸収」に分類されます。外部吸収は歯根の外側(セメント質側)から吸収が進むもので、内部吸収は歯の内部(歯髄側)から吸収が進むものです。矯正治療との関連で話題になるのは、主に外部吸収です。

なぜ矯正治療で歯根吸収が話題になるのか

矯正治療は、歯に持続的な力を加えることで、歯を支えている歯根膜や歯槽骨のリモデリング(再構築)を促し、歯を少しずつ動かしていく治療です。この過程で、歯根の先端(根尖部)にごくわずかな吸収が生じることがあることが、これまでの研究や臨床観察から知られています。

多くの場合、矯正治療に伴う歯根吸収は軽度で、歯の機能や寿命に大きな影響を与えないレベルにとどまるとされています。実際、矯正治療を受けた方の大部分では、臨床的に問題となるほどの吸収は生じないと考えられています。一方で、ごく一部の方では、比較的大きな吸収が生じることが報告されており、その背景には個人差や複数の要因が関わっていると考えられています。

歯根吸収に関係するとされる要因

歯根吸収の生じやすさには個人差があり、その要因は完全には解明されていませんが、これまでの臨床知見から、以下のような点が関係する可能性があるとされています。

第一に、もともとの歯根の形態です。歯根の先端が細く尖った形をしている場合や、もともと短い歯根の場合は、吸収の影響を受けやすい傾向があるとされています。第二に、過去の外傷歴です。転倒や衝突などで歯をぶつけた経験がある歯は、歯根の組織がダメージを受けていることがあり、吸収のリスクが高まる可能性が指摘されています。第三に、治療期間や移動距離です。歯を動かす距離が大きい場合や、治療期間が長期に及ぶ場合は、その分歯根にかかる力を受ける時間も長くなるため、リスク要因の一つとして挙げられています。そのほか、加えられる矯正力の大きさや方向、歯を動かす際の生体側の反応の個人差なども関係すると考えられています。

これらはあくまで一般的に指摘されている傾向であり、個々の患者様にどの程度当てはまるかは、レントゲン写真などによる検査を踏まえて担当医が判断する事項となります。

矯正力以外にも関係するとされる要因

歯根吸収は、矯正治療だけによって起こるものではありません。転倒やスポーツ中の衝突など歯をぶつける外傷、長期間にわたる歯ぎしりや食いしばりなどの強い咬合力、重度の歯周病による炎症、虫歯の進行に伴う炎症、加齢に伴う組織の変化など、さまざまな要因が単独あるいは複合的に関わって生じると考えられています。

そのため、矯正治療を開始する前の段階で、既に軽度の歯根吸収がみられるケースも珍しくありません。当院のように矯正歯科と歯周治療を専門とするクリニックでは、矯正治療を開始する前に歯周組織や歯根の状態を含めて精密検査を行い、治療開始前の状態を正確に把握したうえで治療計画を立てることを大切にしています。治療前の状態を把握しておくことは、治療中に生じた変化なのか、もともと存在していた所見なのかを区別するうえでも重要です。

検査の方法について

歯根吸収の確認には、主に歯科用のレントゲン写真(パノラマX線写真やデンタルX線写真)が用いられます。二次元的な画像である従来のレントゲンに加えて、より詳細に歯根の状態を三次元的に把握する必要がある場合には、歯科用CT(コーンビームCT)による撮影が検討されることもあります。

どの検査をどのタイミングで行うかは、治療の内容や進行状況、患者様お一人おひとりの口腔内の状態によって異なります。検査の必要性や頻度、被ばく線量への配慮なども含め、担当医が総合的に判断いたしますので、検査に関するご不明点があれば遠慮なくお尋ねください。

日常生活で意識していただきたいこと

歯根吸収そのものを患者様ご自身が完全にコントロールすることは難しいものですが、日常生活の中で歯や歯周組織への負担を減らす工夫は可能です。例えば、就寝時の歯ぎしりや食いしばりが気になる方は、マウスピース(ナイトガード)の使用について担当医に相談することができます。また、スポーツを行う際に歯への衝突が想定される場合は、マウスガードの使用が外傷予防に役立つとされています。

さらに、歯周病は歯を支える組織全体に影響を及ぼすため、日々の丁寧なブラッシングと、クリニックでの定期的なメインテナンス(歯周検査・クリーニング)を継続することが、歯根や歯周組織全体の健康を保つうえで重要です。矯正治療中は装置の影響でブラッシングが行き届きにくくなることもあるため、当院では衛生士による口腔衛生指導もあわせて行っています。

どのように気づき、どのように確認するのか

歯根吸収は、初期の段階では自覚症状がほとんどないことが特徴です。痛みや歯のぐらつきといった症状が明確に出るのは、かなり吸収が進行した場合に限られることが多く、多くはレントゲン検査によって初めて確認されます。

そのため、矯正治療を行っているクリニックでは、治療の進行に合わせて定期的にレントゲン撮影を行い、歯根の状態を確認しながら治療を進めていくことが一般的です。特に、治療期間が長くなる症例や、大きく歯を動かす必要がある症例では、経過観察のタイミングや頻度について、担当医が個別に判断します。

もし治療中に歯の違和感やぐらつきなど、気になる症状があれば、自己判断せずに早めに担当医へご相談いただくことが大切です。

歯根吸収がみられた場合の対応の考え方

レントゲン検査などで歯根吸収の所見がみられた場合でも、多くのケースでは、吸収の程度が軽微であれば、そのまま慎重に経過を観察しながら治療を継続することがあります。一方で、吸収の程度によっては、矯正力の調整や治療計画の見直しが検討される場合もあります。

どのような対応が適切かは、吸収の程度、残っている歯根の長さ、歯の動揺の有無、治療の進行状況など、複数の要素を総合的に評価した上で、担当医が判断する事項です。この記事はあくまで一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の症例に対する診断や治療方針の説明ではありませんので、ご自身の歯根の状態や治療方針について気になる点がございましたら、必ず院長・担当医にご確認ください。

不安に思ったときは

「歯根吸収」という言葉だけを聞くと、大きな不安を感じられる方も少なくありません。しかし、軽度な歯根吸収は矯正治療において比較的よくみられる現象であり、それ自体が直ちに歯の寿命を大きく縮めるものではないとされています。大切なのは、治療中の定期的な検査によって歯根の状態を把握し、必要に応じて対応を検討していくことです。

当院では、矯正治療を行う際に、口腔内の状態を精密に検査したうえで治療計画を立て、治療期間中も経過を確認しながら進めることを大切にしています。歯根吸収を含め、治療に関してご不安な点やご質問がございましたら、どうぞ遠慮なくスタッフまたは院長までお声がけください。

よくいただくご質問

Q. 矯正治療を受けると、必ず歯根吸収が起こるのですか。
A. 矯正治療では歯に力を加えるため、ごくわずかな根尖部の吸収が生じることがあると報告されていますが、必ず起こるというわけではなく、また起こったとしても多くは軽度にとどまるとされています。程度には個人差があります。

Q. 歯根吸収が心配で矯正治療をためらっています。治療を受けない方がよいのでしょうか。
A. 歯根吸収のリスクと、歯並びや咬み合わせを改善することで得られるメリットは、それぞれ個別に検討する必要がある事項です。ご自身の口腔内の状態やリスク要因を踏まえたうえでの判断となりますので、まずは検査を受けたうえで、担当医とよくご相談いただくことをおすすめします。

Q. 一度吸収した歯根は元に戻りますか。
A. 吸収によって失われた歯根の組織が自然に元通りに再生することは基本的にないとされています。そのため、吸収の進行を早期に把握し、必要に応じて対応を検討することが重要とされています。

Q. 治療後も定期的な検査は必要ですか。
A. 矯正治療が終了した後も、歯や歯周組織の状態を長期的に維持するためには、定期的なメインテナンスでの確認が推奨されます。治療後の通院頻度については、担当医からご案内いたします。

当院の考え方

当院は矯正歯科と歯周治療を専門とする包括的な歯科医療を提供しており、矯正治療を検討される際には、歯根や歯周組織の状態を含めた精密検査を重視しています。歯根吸収のリスクを完全にゼロにすることはできませんが、治療前後・治療中の丁寧な検査と経過観察によって、リスクを早期に把握し、必要な対応を検討できる体制を整えることを大切にしています。矯正治療をご検討中の方は、まずはご自身の口腔内の状態を知ることから始めていただければと思います。

まとめ

歯根吸収は、歯の根っこが何らかの原因で吸収される現象で、矯正治療に伴ってごく軽度に生じることがあります。多くの場合は臨床的に大きな問題とならない範囲にとどまりますが、個人差があり、原因も完全には解明されていません。もともとの歯根の形態、過去の外傷歴、治療期間や移動距離、加えられる矯正力の大きさなど、複数の要因が関わっていると考えられています。

自覚症状が出にくいため、レントゲン検査などによる定期的な経過観察が重要であり、これは当院が矯正治療を進めるうえでも重視している点です。治療中に歯の違和感やぐらつきなど気になる症状があれば、自己判断せず早めにご相談ください。歯根吸収は正しく知ることで過度に恐れる必要のないものですが、ご自身の状態に関する具体的な診断や治療方針の説明は、本記事のような一般的な情報ではなく、必ず担当医から直接ご説明する内容となります。矯正治療をご検討の際は、まずはお気軽にカウンセリングにお越しください。

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