矯正治療が終わった後、「歯並びがきれいになって嬉しい!」という達成感と同時に、「歯ぐきが下がってきた気がする…」「歯が長く見える…」といった口元の変化に違和感を感じる方が少なくありません。
これは歯肉退縮(しにくたいしゅく)という現象で、矯正後に起こりうる“隠れたリスク”の一つです。今回はこの問題について、原因から予防法、そして治療法まで、歯科医師が監修する内容をもとにわかりやすくご紹介します。
■ 歯肉退縮とは何か?
歯肉退縮とは、歯を覆っていた歯ぐきが後退し、歯根(しこん)が露出してしまう状態のことをいいます。
主な症状は以下の通り:
- 歯が長く見える
- 歯と歯の間にすき間が出る
- 冷たいものがしみる(知覚過敏)
- 歯の根元にくぼみができて虫歯になりやすくなる
矯正終了直後は問題がないように見えても、数ヶ月~数年のうちにじわじわと進行するケースが多く、見落とされがちなトラブルです。
■ なぜ矯正後に歯ぐきが下がるの?
矯正治療そのものが直接の原因というよりも、歯の移動に伴う組織への負担や、個々の歯周組織の状態によって退縮が起こるとされています。
以下のような要因が関与します:
- 骨の薄い部位への歯の移動
- 特に下顎前歯部など、骨が非常に薄い部位では歯肉・骨のサポートが失われやすい
- 歯ぐきがもともと薄い(薄い歯肉形態)
- 顕著な退縮はなくても、アライナーやブラケットの圧などにより容易に退縮が進行することがある
- 不適切なブラッシング習慣
- 矯正後も過度な力で磨き続けることで、物理的な刺激で歯ぐきが削れてしまう
- 加齢による影響
- 年齢とともに歯周組織の代謝が落ち、歯肉の位置が後退しやすくなる
■ 歯肉退縮を予防するためのアフターケアとは?
矯正後の歯ぐきを守るためには、次のような日常的な予防ケア+専門的な管理が有効です。
1. 正しいブラッシング技術の再確認
- ゴシゴシ磨かず、歯ぐきに優しい“スウィーピング法”や“バス法”を習得
- 超極細毛ブラシや電動ブラシの適切な使用法を歯科衛生士と確認
2. 保定装置(リテーナー)の管理とチェック
- リテーナーが粘膜や歯ぐきに当たっていないか、痛みや違和感がないかを定期確認
- 破損や変形のあるリテーナーはすぐに作り直す
3. 定期的な歯科メンテナンス
- 年3〜4回の定期クリーニングにより、磨き残しや炎症を防ぐ
- 歯ぐきの位置・厚み・色を診査し、早期に変化に気づける体制を整える
4. O-PRO(Orthodontic-Periodontal Regeneration Operation)による予防的外科介入
- 歯ぐきが薄い部位や退縮傾向がある部位に対し、綿引淳一先生が開発した低侵襲歯周外科「O-PRO法」を適用することで、事前に歯ぐきの厚みを確保し、長期的な安定を得ることが可能
■ 実際の症例から学ぶ:矯正後の歯ぐきの変化
矯正中の下顎前歯部に歯肉退縮が起きた症例において、O-PRO法(P3術式)を用いて骨と歯肉の再生が確認されたことが報告されています。

CBCT画像で確認できるように、手術前はCEJ(セメント・エナメル境)と骨縁の距離が大きく離れていましたが、術後には骨の厚みが回復し、歯肉の位置も安定しています。

綿引先生著書「包括的矯正歯科治療 _ 審美と機能を両立するためのフィロソフィー」より引用
■ 退縮してしまったらどうすればいい?
すでに歯ぐきが下がってしまった場合でも、回復が不可能というわけではありません。 以下のような治療法があります:
- 歯肉移植術(CTG)
- 歯根面被覆術(CAF)
- O-PRO法による再生療法
いずれも、適応やタイミングを専門医が慎重に判断する必要があります。早めの相談が何より大切です。
■ まとめ|矯正後の“ゴール”は、歯並びだけじゃない
矯正治療の本当のゴールは「整った歯並び+健康な歯ぐき+美しい笑顔」です。
歯並びだけを整えても、歯ぐきが下がってしまえば審美性も機能性も損なわれてしまいます。
だからこそ、矯正後のアフターケアとして:
- 正しいセルフケアの継続
- 歯科医院での定期管理
- 必要に応じた専門処置(O-PROなど)
この3つの柱を大切にしましょう。